2020年9月14日月曜日

小市民


 ある日の晩。
ファームさん(夫)が自分の畑で採れたトマトと
アボガドでサラダを作っていました。
とても美味しくいただきあくる朝。
歯磨きに立った流しの台の
その上の窓のわきに
アボガドの種がそっと置いてありました。
はは~ん。

昨日、料理しながら
この大きなアボガドの種を
そのまま捨てるのが
何だか惜しくなったんだな。
この種を植えてみたいという
衝動にかられたんだな。

種を眺めながら歯磨きをしている
私の頭には
「小市民」の文字がくっきりと浮かんで来ました。



つがね食堂   ママン


2020年8月3日月曜日

無念の朝


ある日の朝。

目は覚めたのですが
目をあけるのはまだ早く、
布団の上で目を閉じたままノビをしたら、
カマキリのようなポーズになったので、
これはぜひ見て欲しい!と閃き、
私に背を向けてい横たわるファームさんに
「見て!カマキリのポーズ!!」と、
呼びかけますが、無視。

執拗にカマキリのポーズを
見るよう促していると
観念したファームさんは、
目を開けカマキリを見た後
「想像した通りだった」と言い残し、
また背を向けます。

悔しい…
驚かなくてもいいけど、
ちょっとくらい笑うだろうと思っていただけに…
こんな事するんじゃなかった…
無念の気持ちで目をあけ、
すくっと立ち上がり
私の朝が始まりました。



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デブ卒業、その後。


デブを卒業したはずのファームさん(夫)。
ある朝、Tシャツ姿のファームさんを見て、
あれ…

思わず、
「おなかが…」(私)という私に
「大丈夫」(ファームさん)

何が大丈夫なのか計りかねる私に、
もう一度
「大丈夫」と言い
静かにほほ笑むファームさんでした。



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2020年5月26日火曜日

デブ卒業。


ファームさん(夫)は、
10人が10人中
「やせ型ですね」と評価する体型だと思います。
そんなファームさんですが、
この冬はいつもと違いました。

途中から、
「あれ?」とは思っていたのですが、
季節が進むにつれ薄着になって行く
ファームさんがついにTシャツになった時、
すごい事になっているお腹を目の当たりに
絶句しました。
横からも肉がはみ出ているTシャツ姿の
ファームさんは
「これは間違いなんです」と、
朝ごはんのパンを目を閉じて食べます。

いいんだよ、いいんだよ。
そのお腹でいいんだよ。
と、私はつぶやきます。

しかし!
いそいそと農作業が忙しくなって来たある日。
あれ??
ファームさんのお腹は嘘のように
元通りになっているではありませんか。
デブ卒業。

そこで思ったのですが、
あのお腹を隠そうとしなかった所に
この勝負の勝因があったように思うのです。

生まれてからこのかた、
萬年デブの私はいつも
のびのびジーンズ様の物をはき、
ふわ~とした着物で覆います。
そこだと思います。

お腹が元通りになったファームさんは
「だからこれは間違いって言ったジャン」と
紳士のほほ笑みです。



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2020年4月27日月曜日

土を掘る


この大きなお屋敷に引っ越して来て
もう3年が過ぎました。

まだ食堂を始める前のある日、
両手にのる位の大きさの
深緑色の鳥が固くなって死んでいるのを見つけ、
その時は、鳥インフルエンザか?と
ちょっと畏れながらも土を掘り
死んだ鳥を埋めました。

先日の事。
パソコン仕事をしていると、
ドン!と何かぶつかる大きな音がするので
振り返り窓の外を見ました。
窓硝子まで近づくと、
羽毛と黄色い汁が硝子にへばりついていました。
これは…
と、思い外にでてしばらく探すと、
片手をいっぱいに広げたらのる位の
深緑色の鳥が倒れていました。
丁度3年前に固くなった鳥を
見つけたのと、だいたい同じ場所でした。

謎がとけました。
庭で固くなっている鳥は、
窓硝子に激突して死んでしまったのだ。

私は、鳥のサイズを大体にはかり、
庭のいい場所に土を掘ります。
スコップに鳥を乗せると
目を開けたまま、まだ
固くならずにぐにゃっとしています。
生き返るだろうか…と、
しばらく見ていましたが、
どうやらそんな事もなさそうなので、
掘った土の穴の中に入れ
浅く土をかけ
「かわいそうな事だったね」と
声にだして、短いお弔いを終えました。

前回も今回も、土を掘り死んだ
生き物を穴に埋める時に、
いつも富士日記(武田百合子著)を思い出します。
百合子さんが愛犬を土に埋める
あの場面をいつも思い出します。
深い穴を掘り、死んだ犬を埋め
「ポコ、早く土の中で腐っておしまい」と言い、
どんどん土をかけて、かたく踏んでやる
あの百合子さんを新鮮に思い出します。



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2020年4月13日月曜日

ホーホケキョ。


この季節になると、鳥の鳴き声で
目が覚めます。
いかにも風流です。

布団の中で、
どんどんお上手になって行く
ホーホケキョを聞きながら。
「上手に鳴いた方がモテる」という
子ども科学電話相談の鳥の先生の話を思い出します。

見事に鳴くホーホケキョは、
先生の言う通りモテたとして、
うっとりした雌の鳥がやって来たとして、
それでもやっぱりホーホケキョ。
いって、ケキョケキョを沢山付け足すくらい。
それで、いいのか?
他に求愛のしゃべりとか、いい喉でしないのか?
疑問。
そのいい喉で「僕と結婚して下さい」
とか、鳥語で言えばいいのに。
ホーホケキョだけのボキャブラリィで
いいのか?
ものすごく疑問。

鳥の先生に聞いてみたいな。
と、思いながら布団の中で
もぞもぞ考えます。



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2020年4月11日土曜日

ですが、時々。


私よりもファームさん(夫)の方が
ものをよく知っています。
それは自覚しています。
ですが、時々。

例えば昔のドラマ、
前略おふくろ様を見て
「出演者のほとんどが鬼籍入りしているね~」
など私が言うと。
「えっ?」(ファームさん)
と、驚き、私が何を言っているのかを
一生懸命理解し、
「今、鬼籍って言った?」と、
驚きの表情から一変、
嬉しそうに、ぐふぐふと笑いをこらえながら
聞き返します。
「鬼籍くらい、私でも知っています(怒)」(私)
と、睨み返すと、
嬉しそうな顔のまま
「いや~びっくりした!」と
言うファームさんを見ていると、
メラメラと燃えてきます。

時々、いや再々燃えてきます。



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